2015年御翼4月号その3

幸福になる道は、高い価値を追求すること

 

 才能に恵まれた優秀なグラフィックデザイナー・フランクは、教会に行く人たちを冷笑し、どこか軽蔑するようなところがあった。しかしあるとき彼は、「ぼくは経済的には恵まれていますが、心から求めているものをまだ手に入れていないという気がするのです。実をいうと、それが何なのか自分でもわかっていないのです」とピール牧師に打ち明けた。そして、古来、偉大な芸術家は信仰を持っていたことに自分で気付いたフランクは、教会に通い始める。彼はイエス様のことを尊敬し、聖書を熱心に研究し、仕事にも情熱を注いだ。しかし、新たに信仰を見出したことで、自分は幸せだと感じるところまではまだいっていなかった。
 フランクはイラストの腕はよかったが、その作品はセクシーすぎるきらいがあった。その種の仕事は割高で、彼はよい収入を得ていた。しかし、今や信仰に目覚めたフランクは、いかがわしいイラストを出すときは心が痛むようになった。そんな頃、上役から、「フランク、わが社はすばらしい広告主をつかんだよ。エロチックで強烈なやつをと注文がついている。君ならお手のものだな」と言われた。                        その夜、フランクはピール牧師に電話して、どうすれば善悪を見極めることができるか尋ねた。「『この仕事のどこが悪い、おまえのような古風な考え方は今どきはやらない』と友人たちは言うのです」「とんでもないことです」「私は先生の言葉に従います。ですが、何か行動の指針はないものでしょうか。私はクリスチャンらしく行動したいのです」とフランクは言う。ピール牧師はキリストならどうするか″問うてみることで判断の是非をテストできるのではないかとアドバイスした。「それもいいかもしれませんね。しかし、何が正しく何が間違っているかズバリわかるような方法は他にありませんか」「ありますとも」と答え、牧師は自分の気分をチェックするよう勧めた。「何かした後、気持ちがもやもやするようなら間違ったことをしたのだし、すっきりした気分になれるようなら正しいことをやっているといっていいでしょう」と。フランクはこの方法を気に入ったようだった。
 フランクとしては、この仕事を引き受けたら、後でどんな気分になるかわかりきっていた。彼は、自分にはこの仕事はできないと断り、自分は神の教えに従わねばならないと言った。上役は彼をまじまじと見ながら、「だが、君は同じような仕事をこれまでもしてきたじゃないか」と言う。フランクは、最近キリストの教えに従うようになり、自分が正しいと感じることのみ行うという倫理的基準を得たことを説明した。上役は溜め息をついた。「フランク、わかったよ。よく打ち明けてくれた。この仕事は誰か他の者にやらせよう。だが、うちはスタッフが少ないんだから、悪いが君にはやめてもらうことになるよ」と上役は言った。フランクは帰宅すると、夫人に首になった話をした。夫人は彼を抱きしめ、「あなたは立派よ。クリスチャンなら、時にはこういうこともあるわ。神様の祝福とお導きがあると信じましょうよ」と慰めの言葉をかけた。生活は日を追って苦しくなったが、二人は生活をきりつめ、信仰を深め、神に祈った。
 ある日、職業斡旋所から電話があった。「質の高い仕事を一級のイラストレーターにやってほしいという求人があるのです。その仕事にあなたを強く推(お)す人がいるのです」。フランクは仕事を引き受けた。そして、後に彼を推薦したのは彼を首にした元の会社の上役だということがわかった。フランクは前の会社に立ち寄って上役に礼を述べた。「このたびはどうもありがとうございました。しかしまた、どうして…」「君が気に入ったからさ。君は腕もいいしね。それに…君は男だ。根性がある。せいぜいがんばるんだな」とためらいながら言った。後でフランクはピール博士に次のように述懐した。「われながらよくやったという気がしましたよ。ところで、おかしなことがあるんです。生活が苦しかったときも、私も妻も心は晴れやかで幸せだったのです」と。
N・V・ピール『生きるって素晴らしい』(ダイヤモンド社)

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